選択・判断の手掛かりとなる考え方の一問一答と流れの解説
行為の結果を重視する考え方と動機や義務を重視する考え方を比べ、正義論、思考実験、環境保護や生命倫理への応用をたどります。まず流れの解説を読み、一問一答(29問)と、用語から説明を選ぶ4択で確認します。
一度の正解は「正解済み」、別の日にも正解すると「定着」と表示します。
流れの解説
結果を重視する考え方
私たちは日々、何が正しいかを判断しながら行動しています。その手掛かりとなる考え方の一つが、行為の善し悪しを、その行為がもたらす結果で判断する帰結主義です。その代表が功利主義で、行為の結果として生じる幸福の量を基準に、それを最も増やす行為を正しいとします。ここでいう幸福は自分一人のものではなく、影響を受けるすべての人の幸福なので、自分の利益だけを追う利己主義とは区別されます。
イギリスのベンサムは、人間は快楽を求め苦痛を避ける存在だと考え、「最大多数の最大幸福」を立法や政策の目標に掲げました。快楽の強さや持続性などを基準に快楽と苦痛の量を比べる快楽計算も唱えました。これに対してJ・S・ミルは、「満足した豚であるより、不満足な人間である方がよい」と述べ、精神的な快楽は身体的な快楽より質が高いとする質的功利主義を説きました。功利主義は、社会全体の幸福を高める政策を考える手掛かりになる一方、全体の幸福のために少数の人を犠牲にしてもよいのかという問題を抱えています。
例えば、限られた予算で道路や病院を整備するとき、より多くの人が利益を受ける案を選ぶのは功利主義的な考え方です。結果を比べて判断するので、立場の異なる人どうしでも議論の筋道を共有しやすいという長所があります。ただし、幸福の量を正確に測ることは難しく、何を幸福とみなすかによって結論が変わることにも注意が必要です。
動機や義務を重視する考え方
結果ではなく、守るべき義務に従おうとする動機によって行為を判断する立場を義務論といいます。ドイツのカントは、無条件に善いといえるのは義務に基づいて行為しようとする善意志だけだと考えました。「もし~したいなら~せよ」という条件付きの仮言命法ではなく、「~せよ」と無条件に命じる定言命法こそが道徳の命令だとしました。そして、欲望や外からの強制ではなく、自らの理性が立てた道徳法則に自ら従う自律に人間の自由を見いだしました。人格をもつ人間は、単なる手段ではなく常に目的として尊重されるべきであり、カントはそのような人々がつくる共同体を目的の国と呼びました。
義務論の考え方に立つと、たとえ多くの人の利益になるとしても、うそをつくことや、人の権利を踏みにじることは許されません。一人ひとりの尊厳を守る強い根拠になる一方で、守るべき義務どうしがぶつかったときにどちらを優先するかを決めにくいという難しさもあります。結果を重視する考え方と動機や義務を重視する考え方は、どちらか一方だけで判断するのではなく、両方の視点から自分の判断を見直す手掛かりとして使うことができます。
正義をめぐる考え方
アメリカのロールズは『正義論』で、功利主義は全体の幸福のために一部の人の自由や利益を犠牲にしかねないと批判しました。ロールズは、人々が自分の才能や地位を知らない原初状態を想定しました。そこで無知のヴェールをかぶった人々は、自分が最も不利な立場になるかもしれないので、誰にとっても公正なルールを選ぶはずだと考えました。この構想を公正としての正義といい、不平等は最も恵まれない人々の利益を最大にする場合にだけ許されるという格差原理を含みます。インドのセンは、所得の多さではなく、人が価値ある生き方を選べる潜在能力(ケイパビリティ)の広がりに注目しました。一方、ノージックらのリバタリアニズムは個人の自由と財産権を重んじて再分配に反対し、サンデルらのコミュニタリアニズムは共同体で共有される善を重視します。どの立場にも重視する価値があり、それぞれの主張を比べながら考えることが求められます。
例えば、税によって豊かな人から貧しい人へ所得を移す政策について、ロールズの立場からは最も恵まれない人の暮らしを改善する点で支持されやすく、リバタリアニズムの立場からは個人の財産権を侵すとして批判されます。同じ政策でも、どの正義の考え方に立つかによって評価が分かれるのです。
思考実験と現代の課題への応用
これらの考え方の違いを確かめる方法に思考実験があります。有名なトロッコ問題では、暴走する車両の進路を切り替えれば5人が助かるが、別の1人が犠牲になります。犠牲者の数を比べる功利主義的な判断と、自らの行為で罪のない人を死なせてはならないという義務論的な判断が対立し、自分が何を根拠に判断しているかが見えてきます。
思考実験は、現実には起こりにくい極端な状況を設定することで、ふだんは意識しない判断の根拠を取り出して比べることに意味があります。答えを一つに決めることよりも、なぜそう判断したのか、別の立場の人はどう考えるのかを言葉にし、他者と話し合うことが大切です。
こうした考え方は現代の課題にも生かされます。医療の進歩で生まれた問題を考える生命倫理では、医師の十分な説明と患者の同意を求めるインフォームド・コンセントや、患者本人にとっての生活の充実を重視するクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が大切にされます。環境保護では、将来の世代の生存の条件を損なわない責任を現在の世代が負うという世代間倫理が唱えられています。
まだ生まれていない世代は、今の議論に加わって意見を述べることができません。そのため、資源の利用や環境への負荷をどこまで許すかを考えるとき、現在の世代の幸福だけでなく、将来の世代に対する責任をどう判断に組み込むかが問われます。
功利主義やカントの思想は、まなびジムの倫理ジムの「功利主義・実証主義・プラグマティズム」「カントとヘーゲル」の章で、ロールズ・センなどの正義論や生命倫理は同じく「現代の思想」「生命・自然・科学技術と倫理」の章で、さらに詳しく確かめられます。地球環境の問題は第13章「地球環境と資源・エネルギー」で扱います。
一問一答
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